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コラム:階層別教育の再構築コラム:階層別教育の再構築

研修をもっと知るインタビュー+コラムVol.3では『階層別研修』を取り上げます。
企業の人材育成支援・コンサルティングを行なう株式会社ヒューマンテック代表の濱田 秀彦さんに階層別研修の構築・運営のポイントについてお話をお聞きしました。

濱田 秀彦さんは、階層別研修に関する書籍を執筆されていることもあり、社員教育ご担当の皆様から階層別研修に関する悩みを数多く相談されています。コンサルティングを通じて様々なケースの問題解決を行ってきた経験から、人材育成担当者が抱える階層別研修の具体的な悩みと、解決のポイントを解説していただきました。

(株式会社 ディレンマ Method 研修事業部)

最初にお聞きしたいのですが、今回のテーマはなぜ構築ではなく、「再構築」なのですか?

多くの企業が、既に階層別教育を実施しており、今後ゼロからスタートするというケースは、とても少ないからです。それに、ある程度実施している結果、抱えてしまった負の遺産もあり、そこに悩んでいる担当の方が数多くいらっしゃることを知っています。

ここ3年の間に、「課長のキホン」(河出書房新社)、「主任・係長の教科書」(光文社)、「新入社員ゼッタイ安心マニュアル」(河出書房新社)という本を出してきました。個人的に、階層別3部作と呼んでいます。これらの本を出したところ、階層別研修の講師を担当するケースが倍増しました。その中で、社員教育ご担当の皆様から階層別研修に関する悩みを数多く聞いてきました。

担当者の悩みというのは具体的にどのようなことでしょうか?

一番多いのが、「変えたいが、どのように変えればよいのかわからない」ということです。 「いまの階層別研修は、前任者が組んだもので、悪くはないと思うが、自分の考えも入れて新しくしていきたい。でもその方法論がわからない」ということをおっしゃいます。また、主任・係長研修と管理者研修における部下指導など、共通項目については、一部を変更すると、関連して調整しなくてはならなくてはならないことが発生し、こっちを立てればあっちが立たずのようなパズルになり、容易にいじれないということもあります。さらに、階層別研修の場合、社員には順を追ってモレなくダブリなく受講させたいのに研修履歴が未整備で、誰がどんな内容を受講してきたかも正確に把握できないという悩みもよく聞きます。

どうやって変えていけばよいのでしょう?

単純な話として、階層別研修は、人事考課における能力考課項目を核として、そこに連動させればよいと思います。それが、経営者にとっても、社員にとっても納得感があります。各等級の能力考課項目のスコアを上げるために行うのが階層別研修と考え、考課項目に変更があれば、連動して研修も変更するという考えにすれば、すべてがすっきりします。先ほどお話しした研修間のパズルも、現状是認で行うから解きにくくなるわけで、能力考課項目に基づけば、あるべき姿重視で、迷うことなく完成にたどり着けます。

よく人事考課項目は抽象的で、研修テーマにしにくいという声もありますが?

もしそうならば、教育スタッフが提言して人事考課項を変えればよいと思います。「それは、人事スタッフのやること」と傍観していたら本質的な人材開発はできません。

考課項目との連動について、具体的にはどう進めればよいのでしょう。

まずは、階層別の考課項目のスコアについて現状を知る必要があります。スコアが低い部分が、強化テーマになります。次に、考課項目が階層別研修にどのように展開されているかをチェックします。考課項目のスコアが総じて低い部分に触れていない、相対的に取り扱いが少ないという部分が改訂ポイントになります。
次に、必要になる時間を再考し、1日なのか2日なのか、適正な日数を設定します。予算的な事情もあり、思い通りにできるとは限りませんが、あるべき論で1回作ってしまいます。その上で、日数が取れない場合は、eラーニングやテレビ会議システムを使った、遠隔教育で補うなどの方法論を別途考えます。

先ほどお話に出た、研修履歴についてはどうでしょう。

過去にさかのぼって整理していく作業は、膨大になる上、正確性についても疑問が残ります。過去についてはある程度目をつぶるという割り切りが必要でしょう。過去に受講したものと似たような内容の講座を受けてしまう社員が出ることもやむを得ないと思います。ただし、重複受講が起こるような期間は極力短くし、以降はきちんと管理できる体制を作る必要があります。テクニカルな話になりますが、エクセルで受講管理をするのは無理があります。リレーショナルデータベースでやらないと、「この研修を受けたのは誰か」「この社員はどんな研修を受けてきたか」を最低限の入力でわかるようにする仕組みは作れません。内容面の見直しとともに、そういう仕組みを作ることも並行して進めたいものです。

ここからは、個々の研修の組み方についてうかがいます。階層別研修の中で、重視すべきなのは、どの階層でしょう?

新入社員研修と、新任管理者研修です。予算がなければ最低限この2つだけをやる、と割り切ってもよいほど重要です。どちらも、新しい世界に飛び込む人々に対し、必要な意識と能力を付与する教育という点で共通しています。

新任管理職研修は、優秀なプレイヤーから、マネージャーに生まれ変わってもらうために必要です。管理職になる人々は、個人プレイヤーとしては優秀ですが、それがマネジメントとがうまくできることとは別問題です。名選手は名監督ならず、という言葉が指すように逆になることもしばしばです。マネジメントがうまくいかなければ、部下達も路頭に迷います。影響も大きく、そういう意味でも、きちんとやっておく必要があるのです。

新入社員研修は、配属した部署で動けるように、当社の社員として人前に出して恥ずかしくないようにするため、会社のDNAをインストールするため、やらねばならないものです。

新任を含む管理者研修の企画ポイントはどんなところでしょうか?

おそらく、どこの企業でも部長層は数が少なく、集合研修は組みにくいのではないかと思います。部長層は、見識を高めるためにも社外の公開コースで、他流試合をしてくるのもよい方法だと思います。テーマはビジョン創出、戦略、中期計画、育成のシステム作りなど大きな視点のものがふさわしいでしょう。
課長クラスは、ある程度の人数もいるでしょうから、社内で組んだ方がコスト的にも有利な場合が多いです。
課長層の研修内容は、能力考課項目をもとにテーマをリストアップし、緊急度の高い内容を新任管理者で、残りは既任管理者の研修で取り上げればよいと思います。緊急度の高いテーマの例を挙げると、年間計画の立案や、会議運営、部下育成などです。なにしろ、すぐに実務で直面するわけですから。案件処理のシミュレーションなども早い段階でやっておきたいですね。逆に、ロジカルシンキングや問題解決などは、管理職としてある程度経験したところで取り上げてもよいと思います。

もうひとつの優先すべき研修である、新入社員研修について、最近は社内インストラクターで実施する企業も増えていますが、どんなことに気をつければよいでしょうか?

新入社員インストラクター養成コースに行ってください、私もやっていますので。というと営業っぽくなるので、あまり強調したくないのですが。
実際、新入社員インストラクター養成コースにいらした教育担当の方とお話しすると、短いマナーの講習の後は、各部門の話を聞くだけのプログラムだったり、かなり古いテキストを使っていたり、改善の余地が相当あることがわかります。まずはスタンダードな進行を知って、その上で自社なりのアレンジをすればよいでしょう。
新入社員が、「こう指導してほしい」と言ってくることは少なく、社内講師が「こんなものだろう」と思ってしまえば、改善余地が数多くあってもそのままにされてしまうものです。その社員が一生に一度しか受けない研修なのですから、最高のものにしてあげようという気持ちで取り組んでいただきたいと思います。
参考までに、一般的なタイムスケジュールを挙げます。

1日目 2日目
AM

1.ビジネスフィールドを理解する

・社会人としての自覚
・最低限知っておくべき経済知識
・企業の目的と仕組み
・組織図の読み方

3.電話応対

・電話の基本知識
・受電の実習
・伝言メモの書き方
・ケース別電話応対
・電話をかける

PM

2.職場のマナー

・マナーとルールの目的
・身だしなみ
・挨拶実習
・挨拶ロールプレイング
~各自の挨拶をビデオ撮りし矯正~
・敬語の知識
・敬語の実習
・ビジネスの慣用句
・訪問時の留意点
・名刺交換のやり方

4.仕事の進め方

・基本的な仕事の進め方
・PDCA、5W2H、QCD
・受命の練習
・報告のポイント

5.ビジネス文書の書き方

・文書の種類と書式
・社内文書と社外文書のポイント
・文書作成実習

6.まとめ

新入社員研修は、秋のフォロー研修まで含めて考えるとよいでしょう。研修の主旨は「原点に返る」ということです。また、半年が過ぎて「モチベーションが落ちている者がいないか」、「マナーは崩れていないか」などチェック的な意味合いでも実施したいものです。

中堅層の研修はどうでしょう?

中堅層は、テーマ選びが難しいですね。人事考課項目も、抽象的なものが多く、ある程度意訳していかないとなりません。また、主任・係長層で実施する内容をあまり先取りすると、後の組み立てがしにくくなります。
テーマについては従来から、試行錯誤されてきました。順番に並べると、マナーの見直し、コミュニケーション、キャリア開発、アサーション、ロジカルシンキング、タイムマネジメントという順に流行り、どれもいまひとつ定着しないまま、いまも各企業が模索しています。
私は、この層には「報連相」の研修をお勧めしています。上司層が中堅社員に求めるものとして報連相は、優先度の高いテーマです。それに、中堅層の能力考課項目の中には報連相に関連するものが、必ずと言ってよいほど入っているからです。
ただ、このテーマを歓迎する中堅社員は少ないです。「報連相は大切。正確に迅速に」という調子で一日説教されそうだと懸念して来る方が多いのが実態です。そこで、報連相をコミュニケーションのキーワードと位置付け、仕事術的な内容を中心に編成しています。その方が、前向きに取り組んでくれます。
参考までに、スケジュールを挙げます。

内容
AM

1.報・連・相の本当の意味

(1)報告と連絡の違い
(2)正確、迅速は必要だが十分ではない
(3)報・連・相のレベル自己チェック
(4)人材タイプ別の報連相 強みと弱み

2.基本レベルトレーニング

(1)基本ツール5W2Hの活用と高度化
(2)指示を確実にキャッチするための効果的な質問
(3)報・連・相の手順

PM

3.活用レベルトレーニング

(1)報連相シミュレーションゲーム
(2)正しく伝えるための原則を知る実習
(3)情報で人を動かす「連絡」の実践
(4)究極の報連相とは

4.報・連・相 実践演習

(1)ケーススタディ 悪い報告を理想的な報告に変える
(2)文書による効果的コミュニケーション

5.さらなるレベルアップを目指して

(1)究極の報・連・相とは
(2)スキルから人格へ

あるメーカーでは、管理職の研修の一部に「報連相の受け方」という項目を加え、部下だけでなく上司も含めて、職場のコミュニケーションをよくする試みを行った結果、上司・部下の双方から高い評価を得たそうです。こんなベタなテーマでも、工夫次第で階層別にうまく取り込むことができるものです。

主任・係長層の研修については、受講者に部下がいたりいなかったり、職場によって役割が大きく異なるなど、企画しにくい研修という声がありますが、どうでしょうか?

その通りです。例えば、主任クラスの中には、後輩指導をしたくても職場に後輩がいない、実質的には一番下の立場ということさえあります。だからといって実情にあわせると、「本来、主任・係長はどうあるべきか」という観点が抜け落ち、中堅社員研修とたいして変わらないものになってしまいます。
現状がどうあれ、主任・係長層には、後輩指導も含めてワンランク上の内容をもってくるべきでしょう。本人達の納得感はメッセージの出し方しだいで高められると思います。
例えば、中堅社員のうちは、「こなす」仕事がメインですが、主任・係長になったら「さばく」はもとより「仕掛ける」仕事ぶりが求められます。そういうことなら、職場で一番下であろうと関係ありません。

階層別教育と関連して、OJTに人事教育部門がどのように関わればよいかということについて、ご意見を聞かせてください。

シートを配布し、上司・部下に記入させ、提出させることでOJTの現状をチェックするという方法がよくとられています。もちろん悪いことではありませんが、上司がOJTについて十分な理解がない状態で、やらされ感で記入しており、実質的な効果は上がっていないことが多いようです。部下にOJTシートの記入を指示する際も「人事に出さなくてはいけないから書いておいて」というような感じです。そして、シート改訂の度に記載項目が増え、上司の負担感が増していくのが典型的なパターンです。

そうならないよう、シートの設計に凝るより、前提になるOJTの考え方を上司にしっかりとインストールする方が大切だと思っています。OJTシートに記載されたことに対し、人事・教育部門が直接介入することは物理的にも不可能ですので、情報を取るという考え方を捨て、上司と部下が話し合いをするためのツールでしかないと割り切った方がよいでしょう。そう考えれば、シートはむしろシンプルになっていくはずです。

チューター、メンター制度も同様で、シートを書かせるよりも、役割をオーソライズしてあげて、後輩に向き合う意識の持ち方と、指導スキルを付与する研修をしっかりやった方がよいと思います。

最後に、社員教育部門の皆様にメッセージをお願いします。

教育スタッフは、「研修屋さん」でいてはもったいない存在です。稟議書作成、開催通知や出欠確認、資料準備、会場の設営やアンケートの集計、参加履歴の整理など、庶務的なことがたくさんあるのも承知しています。でも、教育スタッフは、人材という最も重要な経営資源のパフォーマンスをMAXにするミッションを持つトップレベルの経営スタッフです。それを意識して再構築にあたってほしいと思います。

本日はありがとうございました。

濱田 秀彦

株式会社ヒューマンテック代表
早稲田大学教育学部卒。大手住宅メーカーグループ会社に入社。営業職にて優秀な成績を収め、最年少で支店長に就任。
その後、人材開発系コンサルティング会社に転職。営業部門にてトップセールスを記録。経営企画、システムソリューション部門のマネージャーを歴任し独立。
現在、株式会社ヒューマンテックの代表としてマネジメントや部下指導、ビジネスコミニュケーションのテーマを中心に教育研修や教材開発にあたり、これまで、指導したビジネスパーソンは1万7千人を超える。

著書:「課長のキホン」(河出書房新社)、「主任・係長の教科書」(光文社)、「新入社員ゼッタイ安心マニュアル」(河出書房新社)、「あなたが上司から求められているシンプルな50のこと」(実務教育出版)、「じつは稼げる[プロ講師]という働き方」(阪急コミュニケーションズ)、「ビジネス快話力」(主婦と生活社)、「みんなのパワーポイント 企画・構成・話し方」(エクスナレッジ)、「人生を変えた5つのメール」(祥伝社)、 「つい口に出る『微妙』な日本語」(ソフトバンククリエィティブ)、「奇跡を起こすマジックボックス」(青春出版社)ほか