企業研修・社員教育研修を提供 研修で人材育成と企業競争力を高める


コラム:個別研修設計の正しい進め方コラム:個別研修設計の正しい進め方

社員研修を企画する際、まず最初に考えるべきことをお聞かせください

はじめに、研修の目的、ゴール(=成果)をしっかり考え、明確にすることがポイントです。社員研修を企画するとき、研修項目と対象者を簡単に決めた後、日程、講師、会場などを考え始める担当者は少なくありません。これらは実際の運営や手配に関わることで、研修主催者、事務局としては早く決めたいことです。けれども、あくまでも手段、方法の話です。

まず最初に、研修の目的、ゴールを明確にしましょう。そうすれば、運営に関する細かい事項は決めやすくなります。そして、研修の目的、ゴールを明確にするには「人材育成のニーズ」を把握しなければなりません。

研修の目的、ゴールを明確にする、ということをもう少し詳しく教えてもらえますか?

どのような人材育成ニーズがあり、何のために研修を行うのかを考える必要があります。ゴールとは研修による成果です。対象者が研修受講によって変化した後の姿がゴールです。その成否(ゴールを達成したか否か)の基準を明確することが難しいならば、研修の目的が十分に明確になっていない、と考えて良いでしょう。変化した状態は、研修によって「知識、スキルを獲得した」「新たな気づきを得た、意識が変わった」など幾つかの種類があります。

次に、研修の目的を具体的にしていきます。私が研修の相談を受ける際、時々遭遇する例を説明しましょう。「管理職を対象にリーダーシップ研修を開催したい」という相談を受けたときのことです。「管理職」「リーダーシップ研修」では、あいまいなので「もう少し具体的にお聞かせください」と尋ねると、「えー、具体的にと言われましても…」「とにかく、一般的なリーダーシップを叩き込んでやってください!」などの答えをもらうことがあります。しかし、管理職と一口に言っても、階層(初級・中級・上級)によって求められるリーダーシップは異なります。管理部門、営業部門、製造部門、研究開発など職種や部門によっても、異なります。話を詳しくお聞きすると、必要なのはリーダーシップではなくマネジメントスキルだということもあります。

また、ゴールを考えるには「レベル」という視点も欠かせません。最近ニーズの高い「問題解決力研修」という例で説明しましょう。一口に問題解決力研修と言っても、対象とする受講者によってゴールのレベルは異なります。

「問題解決についての知識がほとんどなく、問題解決の考え方、問題解決技法を仕事で使う意義などの概要を知ることがゴール」(レベルⅠ)

「問題解決の概要を知識レベルで知っている。問題解決を行うための主要な技法を理解することがゴール」(レベルⅡ)

「問題解決の主要な理解している。演習、グループワークなどを通じて使いこなせるようにレベルアップすることがゴール」(レベルⅢ)

などがあります。求めるゴールのレベルにより、研修方法、必要な時間数(半日、一日、二日……など)、事前・事後課題の要否などが異なってきます。ゴールがレベルⅠのような場合、集合研修よりも別の方法の法が適切なこともあります。概要の理解がゴールなのですから、課題図書を読ませたり、eラーニングを活用したりするのです。それを行った上で、レベルⅡの集合研修を行うほうが効果的で、コストパフォーマンスが高くなります。

人材育成のニーズを適切に集めるにはどのようにすれば良いでしょうか?

まずはじめに申し上げておきますが、研修ニーズは「受講者のニーズ」ではありません。事業を進めていく人材を育成する「企業ニーズ」「現場ニーズ」です。

ヒアリングは有効な方法の一つです。現場(受講者の上司や先輩)に「業務を行うために不足しているスキル、強化したい意識」などを聞きます。できるだけ多くの声を集めることです。ヒアリングする人数が少ないと、個人の主観などの偏りが出て客観的なニーズとして把握することが難しくなります。若手社員や中堅社員に「仕事で困っていること、苦労していること」を聞いたり、社内の常識に染まっていない社歴の浅い中途入社社員に意見を聞いたりすることも有効です。また、以前に研修を行った際のアンケートを読み込んだ後、その時の受講者に研修の内容や進め方についてヒアリングを行うと具体的な意見を聞くことができます。

社員研修の開催を決めた後、具体的な事項の検討について教えてください。

①受講者
受講者を決めるには幾つかの方法があります。
 ・指名制:入社*年目、新任管理職など特定のグループを指名して全員受講させる。
 ・公募制:研修内容を示し、受講希望者を募る。
 ・選抜指名:会社から一定の基準で選考し、指名する。具体的には、次世代幹部育成研修など。
研修の目的、内容、そして受講者の参加意識・意欲への影響などを考えて、適切に選んでください。

②研修時間(日数、時間数)
研修の目的でも述べましたが、研修の内容、ゴールのレベルによって所要時間は異なってきます。目的、ゴールから考えて、過不足の無い時間数を確保したいものです。「目的、内容から考えれば本当は2日間必要だけれど、予算的に厳しいから半日で行おう」というような話を時々聞きます。しかし、これはやや本末転倒の話です。これでは、目的を果たせない中途半端な研修になり、無駄なコストを使うことになったり、受講者の不満を生んだりします。こういう場合は、他の研修などと優先順位を比べて費用を移し換えるたり、事前課題・事後課題などを組み合わせたりして対応し、無理に研修時間を圧縮することは控えたいものです。

③会場
研修効果を高めるためには会場のロケーションも重要な要素の一つです。社内か社外かという大きな選択があります。それぞれにメリット、デメリットがあります。
社内を考えてみましょう。研修事務局の負担が小さい、必要な資料、備品をすぐに追加して用意できるなど、社内の会議室などを使うメリットがあります。受講者の移動時間も短縮できます。しかし、仕事の用件があればすぐに職場から呼び出されて中座する、集中力が妨げられるなどデメリットもあります。
次に社外を考えてみましょう。一部の大企業を除いて自社の研修施設を持っている企業は少ないでしょうから、多くの企業では研修施設を借りることになります。移動時間が発生する、交通費、会場費がかかるなどデメリットがあります。しかし、多くのメリットもあります。まず、日常の仕事から物理的にも心理的にも隔絶される場所が良いでしょう。日常業務から離れ、自由で柔軟な思考を持って研修に集中できるからです。また、ふだんあまり接することがない他部署、他拠点の受講者とリラックスして交流するという副次的な効果も忘れてはなりません。
時間的・金銭的コストや受講者・研修事務局の負担、研修効果などを総合的に考えて研修場所を検討することが大切です。

④研修方式
研修方式には、いくつかの種類があります。代表的なもの二つを説明します。

(a)講義形式
大学の大教室の講義などのように、講師が一方的に説明し、主に知識を伝えるものです。受講者を一つの場所に集めるなどコストがかかる割には研修効果が低いことや、課題図書を読ませたり、通信教育やeラーニングなどで代用が可能であったりするため、講義は最近の研修では減ってきています。最近の傾向としては、単なる講義は減少し、講師が受講者に問いかけを行い発言を求めるインタラクティブ・レクチャー(双方向的講義)を行う企業が増えています。

(b)ワークショップ形式
一方的に知識を伝えるのではなく、課題を設定しグループで討議して発表し、それをクラス全体で共有し更に討議する、というワークショップ形式の研修が増えています。ただし、このワークショップを成功させるためには、適切な課題設定を含めた入念な設計、そして討議の「場」を温め・創り、適切に進行することのできるファシリテーターが必要になります。

講師の選び方は、多くの研修担当者が悩んでいます。こちらについて説明をお願いします。

研修講師を検討する際、社内講師と社外講師の二つ選択肢があります。

最初に、社内講師について説明しましょう。研修の目的、内容に沿った社内講師がいれば、その社員に任せるのがベターでしょう。社内、業界の実態を十分に理解した上で研修を行うことができますし、受講者もリラックスして学べます。また、研修ニーズの伝達、事前打ち合わせ、当日進行など事務局と講師とのコミュニケーションも行いやすくなります。そして、「教える者がもっとも学ぶ」という言葉があるように、講師自身のスキルアップにつながります。人に教えるプロセスで、自分の知識、経験などを整理することができるのです。

次は、社外講師です。事務局としては当然「優秀な講師」を選びたいと考えるでしょう。しかし、優秀とはなんでしょうか?オールマイティに優秀な講師を探すことは非常に困難なことです。大事なことは研修の目的、ゴールに「適切な」講師を選ぶことです。適切さの基準としては、「研修のテーマ」「研修方式」「費用」などがあります。

また、大切ですが見落とされることが多いのが「相性」の適切さです。

・受講者と講師の「年齢層」による相性(例:新入社員などの若年社員にあまり年配の講師、
 逆に、シニアマネージャー層に若すぎる講師、などはあまり相性は良くないでしょう)。
・受講生と、「やさしい講師」「厳しい講師」との相性。
・「基本を学ぶ初学者」と「レベルアップを目指す既習者」と講師との相性。

などです。

研修企画で、その他に注意すべきこと、考えるべきこと、アドバイスなどはありますか?

では、研修のトピック、研修の効果を高めるコツなどで今までお話していなかったことを幾つかお話させていただきます。

①ブレンディング研修で、研修のコストパフォーマンスを高める
集合研修に加えて、課題図書の読み込み、通信教育、eラーニングなど他の教育手段を併用することをブレンディング研修(※)といいます。研修前にこれらを行うことにより、事前知識をインプットしたり、研修参加者のスタートラインを揃えたりすることが可能で、集合研修の効果を高めることができます。※ブレンド【blend】タバコ・コーヒーなどで、種類・品質の異なったものを数種混合すること。

②事前課題と事後課題を上手に設計し、研修効果を高める
限られた時間の集合研修の密度と効果を高めるために、「(a)事前課題」→「当日の研修」→「(b)事後課題」と一連の流れとして研修を設計することをお薦めします。

(a)研修テーマに即した「事前課題」を与えることで、
 ・予習を確実に行わせる
 ・事前に考えさせ問題意識を高め、研修当日に吸収する下地を作る  などの効果があります。

(b)事後課題は、
 ・研修での不明点、疑問点などの確認
 ・職場で活用して、実践できたこと、出来なかったことの整理と、出来なかったことの原因、
  対策の整理などを行わせ、研修内容の定着、実践レベルでの修得を目指します。

③研修の副次的効果を忘れない(リアルな場に集まるからこその交流、コミュニケーション)
集合研修には、知識・スキル習得など本来の目的以外に副次的効果があります。例えば、普段接しない人(他部門、他拠点など)との交流、同期入社の仲間との久しぶりの再会などです。面識が無かった人でも、一度顔をあわせておくと、問い合わせ、相談などその後の仕事がしやすくなります。このような副次的効果を高める工夫を研修担当者は行いたいものです。
幾つか例を挙げれば、

・席順配置
 (自由に座らせるのでなく、面識のない人を並ばせる、職種・拠点・部門・年次など意図した配置)
・ネームプレート(部門、ふりがな付き氏名を大きな字で)
・名簿(職種、拠点、部門、年齢、簡単な職務内容などの自己紹介、などを載せて配布)
・自己紹介(研修前に、上記名簿のような項目で自己紹介を行わせてお互いを知る。場を温める)
・懇親会(単なる飲食会にせず、受講者同士のコミュニケーションを促す工夫をこらす)

などです。

④やりっ放しにしない
研修を企画し実行した後、事務局、研修担当者が「やりっ放し」にすることが多いのはとてももったいないことです。
・研修の企画
 ~実施までを振り返り、反省や学び、気づきを整理し、他の研修や次年度の研修に活かします。
・簡単ではありませんが、研修効果を測定しましょう
(研修効果の測定については、こちらで解説していますので、そちらをご参照ください)

最後に、研修担当者の皆さんへメッセージをお願いします。

研修には時間、お金など多くのコストが発生します。しかし、それは「費用」ではなく「投資」と捉えて欲しいと思います。研修のコストは、将来の自社を支える「人材=人財」を育てるための「投資」なのです。
よい研修は、社員を成長させ、仕事へのモチベーション、会社へのロイヤリティを高めます。人事の業務の中でも最もやりがいのあるものの一つだと思います。
ぜひ、がんばって御社を担う頼もしい人材を育ててください!

太期 健三郎

ワークデザイン研究所代表
早稲田大学法学部卒業。三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)に入社。7年間経営コンサルティングに従事。人事制度改革、人材開発を得意領域とする。
2000年に株式会社ミスミに入社。新規事業立ち上げ責任者として活動後、営業戦略の立案・推進、コールセンター の業務改善などを行う。『V字回復の経営』などの著作でも有名な三枝匡社長(当時。現在会長・CEO)の直轄タスクフォースにて営業改革、短期営業戦略を推進する。
2003年に株式会社グロービ スに入社。人材育成、組織開発コンサルティングに従事した後、グループ管理本部にて、コンプライアンス、法務、人事業務を担当。実行責任者として推進した コンプライアンス推進プロジェクトにて同社President Awardを受賞。2008年にワークデザイン研究所の代表に就任。経営コンサルタント並びに企業研修・セミナー講師として活動中。
【著書】『ビジネス思考が身につく本』(明日香出版)