松浦さんは企業の人材強化やコンサルティング、企業研修・セミナー講師としてご活躍ですが、企業の人材育成担当者の方はどのような悩みの相談が多いでしょうか?
私が研修として提供しているものは、①経営戦略、②会計&財務、③問題解決、④業務改善の4分野になります。この中で一番ご相談が多いものが「②会計&財務」です。私がSMBCコンサルティングなどの公開セミナーで、この分野のセミナーに数多く登壇しているせいかもしれませんが、会社の数字を分かって欲しいというのは、人材育成担当者としては、やはり切な願いなのでしょう。儲けるために、企業人は日夜努力をしているにも拘らず、儲けが何かを知らないのでは、お話にならないわけです。
この「会計&財務」は、税理士や会計士が教えるか、または通信教育で行われることが多いのですが、仕訳からスタートする暗記科目として、受講生には人気がないのが通例です。それを楽しくできて、しっかりと身に着けられないだろうかというのが、ご担当者の共通の悩みのようです。
なるほど。確かに会計・財務研修は受講者に不人気なテーマですね。(笑)
そういった悩みに対する解決策は何がありますか?
私は都市銀行でビジネスパーソンとしてのスタートを切ったのですが、新人研修では、やはり、仕訳から教えこまれました。講義は睡魔との戦いでした(戦いには負けました)。
1年目は支店の窓口業務をしていたので、会計も財務も関係なく、足し算だけで事が足りていましたが、2年目に審査部に異動してからは、数多くの財務諸表(平均5社/日くらいでしょうか)を見なければいけない関係から、自分で一から勉強しました。その結果気づいたことは、貸し方・借り方など知っている必要がないということです。大切なことは、実際のビジネスの動きによって、BS,PL,CFがどのように変化していくのかを仕訳以外の「感覚」でとらえるための基本となる原理です。
これを、ビジネスシミュレーションゲームや我が家の財務諸表を作ってみるなどの演習を通して、腹落ちさせていくのです。 さらには、このBS,PL,CFが静止した状態、動いている状態の双方が分かったら、実際のビジネス局面での会計的思考や財務的思考として、それらをどのように活用できるのかも、同様に演習を通して腹落ちさせていくのです。
会計・財務研修では具体的にどのようなことを教えているのでしょうか?
入門的なレベルの方には、まず儲け(=利益)について理解を深めていただきます。例えば、
①:@100円で1個仕入れたものが、@300円で1個売れた
②:@100円で1個仕入れたものが、@400円で1個売れた
どっちが儲かっているか?と問われれば、皆さん、勿論②だと分かるはずですが、、、
①:@100円で2個仕入れたものが、@220円で2個売れた
②:@100円で2個仕入れたものが、@400円で1個売れた
今度はどっちが儲かっている?と問われるとちょっと迷ってしまう方もでてきます。さらには、
①:100円/日のアルバイトが、@100円で仕入れたものを、1日かけて@150円で1個売った
②:100円/日のアルバイトが、@100円で仕入れたものを、1日かけたが1個も売れなかった
今度はどっちが儲かっている(損が少ないか)?と問われると、さらに迷ってしまう方は増えていきます。
このような、簡単な問いから順にインタラクティブな受け答えを実施していき、会計的な儲けの視点を理解していただくのです(例は売上原価と一般販売管理費を理解するための問いです)。
これらの儲けの視点は、暗記するものではなく、「今までぼんやりとは分かっていたが、今、明確になった!」であったり、「なるほど!そういうことだったのか!」という気付きであることがポイントなのです。
私たちは幼い頃から貨幣経済の中で生活をしているので、よほどの大金持ちのご子息でもなければ、儲けの感覚の破片は頭の中にあるのです。それらを、綺麗に組み合わせてあげるのが、このセッションの役割です。
これらの儲けについてのセッションを踏まえて、儲けだけでは駄目な理由を考え、ここでBSについての解説と演習にはいります。BSとPLはストックとフローという概念が理解できれば、あとは演習を通して「なるほど!」を連発しているうちに、BS,PLは分かってくるのです。
というように、考えることと手を動かすことで「なるほど!」を増産していき、1日が終ると、会計も財務も怖くないし、当たり前のことでしょ?!といえるようになっているのです。
受講者・上司・研修担当者などの声や、研修後の効果・反響はどのようなものがありますか?
受講生の方々の反応は、
・なるほど!の連続だった
・苦手意識がなくなった
・楽しく学べたので忘れない
と狙い通りの反応をいただいております。
「もうちょっと数字を分かっていないとビジネスもままならないから、しっかり勉強しておいで!」と部下を送り出した上司の中には、本質的なことを1日で理解して帰ってきた部下の鋭い質問や回答に驚き、これは「「やばい!」と自分も受講しに来る方もいらっしゃいます。何となくBS,PLが読めるというレベルと、その本質を理解してBS,PLが読めるというレベルでは、ビジネスでの応用の幅がかわってきます。売掛金を回収することで資金負担を減らすということは、何となくBS,PLが読める方でもわかりますが、資金負担を減らすために、他にどんな手を打てるのかを考えたときには、本質を理解していればもっと沢山の可能性を検討できるのです。
研修のご担当者は、通常、初回は後ろでご見学されることが多いのですが、「勉強になりました!」と仰っていただくケースが多いです(笑)。
「楽しむことでしっかりと身につき、さらに自分の仕事に結び付けて仕事のレベルをあげることができる。」これが目指すところであり、またご好評をいただいているところでもあります。
本質を実践しながら楽しく理解することがツボなのですね。
松浦さんはこれからの人材育成についてどのようにお考えですか?
人材育成においては、その成果に対する評価の問題が古くからあり、そして未だに多くの企業が解決策を見出せていないのがこの問題です。この問題に、完璧といえなくても、そろそろ解答をだすころだと私は考えています。
人材育成のご担当者は、その仕事の重要性を肌で感じながらも、成果の評価をできないために、不景気なときには予算を削減され、好景気の波に一呼吸おいて予算の波がやってくるという景気循環型業務に陥っています。
私は業務改善のコンサルタントでもあり、その分野の研修講師も務めるのですが、「計れないものはコントロールできない」という考え方を大切にしています。人材育成をもっと効率よく、もっと効果的に実施するために、真剣に計ることにチャレンジするべきです。計ることができればその先では、採用・配属→評価→処遇→教育のHRMのサイクルが従来よりも有機的に回転をし始めます。教育の費用対効果が測定できれば、教育投資中は報酬が安くても退職金など後払い報酬を多めに設定する、幹部育成コースなどを設定することも合理的に提案できます。計ることで、もっとコントロールの幅を広げていくべきです。その1つとして、まず、人材育成の教育にかかわる投資対効果をはかってみるべきだと考えています。
さいごに松浦さんからメッセージ
2011年3月11日の大地震は日本に大きな傷跡を残しました。人々の心への傷も甚大ですが、同時に社会資本への傷も甚大です。
私たち日本に住む者は、これから20兆円ともいわれる社会資本への投資を余儀なくされます。この投資を、投資として回収するには、ストックベースで20兆円以上の利益を、皆で稼ぎ出さないといけないのです。コンサルタントや研修講師の立場として、皆様の儲けに貢献していくことが、私が社会の一員として果たすべき責務と考えています。
皆様のビジネスを通して、1市民として、復興に貢献できれば幸いです。
本日はありがとうございました。
有限会社ウィルミッツ代表取締役/株式会社プロセス・ラボ代表取締役
京都大学経済学部卒。東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)審査部にて企業再建を担当。その後、グロービス(MBA教育、ベンチャー・キャピタル)にてグループ全体の統括業務、アントレピア(投資ファンド)にて投資先子会社の社外取締役などを歴任する。
2002年、戦略、人事、会計をトータル的に支援するコンサルティングファーム、ウィルミッツを創業。2006年、業務改善コンサルティングをウィルミッツから分社化し、プロセス・ラボを創業。現在は2社の代表取締役を務める傍ら、研修講師としてビジネスパーソンのスキル向上を支援している。
研修をもっと知るインタビュー+コラムVol.2では、戦略、人事、会計をトータル的に支援するコンサルティングファーム、ウィルミッツの代表を務める松浦 剛志さんに「会計・財務研修」についてお聞きしました。
「会計・財務」のスキル・知識は、業務領域を広げたり、ビジネスへの視点を高めることに直結するため、研修に部下を派遣する立場である現場の上司からは人気の高い研修です。また、社員個人のキャリアや長期的な成長にとって、プラスに働く研修といえます。
このように会計・財務は重要なテーマでありながら、効果的に学べなかったり、受講者満足(面白さ、学びがい)が低い研修でもあり、研修担当者が企画に苦労する研修のひとつといえます。
そこで、今回は、楽しむことでしっかりと身につき、さらに自分の仕事に結び付けて仕事のレベルをあげることができるようにする、“会計・財務研修のツボ”を教えていただきました。
本インタビューが「会計・財務研修」設計のヒントになれば幸いです。
(株式会社 ディレンマ Method 研修事業部)